海洋人間学雑誌 第1巻・第1号
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設立記念大会シンポジウム1「船と安全」
船舶事故の再発防止に向けて
漆谷伸介(運輸安全委員会)
キーワード:事故調査、再発防止、運輸安全委員会
【はじめに】
運輸安全委員会は、独立性の高い専門の運輸事故調
査機関として、平成20年10月に発足してから、本年
で4年を迎える。
この間、事故の再発防止及び被害の軽減に資するた
め、徹底した原因究明を行い、航空、鉄道、船舶の事
故又は重大インシデント(以下、「事故等」という。)
調査報告書を公表するとともに、報告書をわかりやす
く解説した分析・刊行物も数多く発行してきた。
そこで、本シンポジウムにおいては、組織の基本的
事項として、運輸安全委員会の沿革及び事故調査の流
れ、当委員会において現在進められている「業務改善
アクションプラン」における取り組み、事故防止・啓
発ツールの作成、発行、及び同ツールの1つとして本
年度より発行している「運輸安全委員会ダイジェスト」
について紹介する。
【事故調査の沿革及び事故調査の流れ】
国民の安全・安心が強く求められている昨今、陸・
海・空の事故原因究明機能の強化・総合化を図るべく、
平成20 年10 月1日に国土交通省航空・鉄道事故調査
委員会と海難審判庁を改組し、運輸安全委員会と海難
審判所が設置された。
運輸安全委員会では、事故等の原因究明並びに事故
に伴い発生した被害の原因究明を行うための調査を行
っている。調査は、事実調査に加えて、必要な試験研
究を行い、これらの結果を総合的に解析して原因を究
明し、委員会での審議を経て、報告書として取りまと
め、国土交通大臣に提出するとともに公表する。
また、必要があると認めるときは、事故等の防止又
は被害の軽減のため、国土交通大臣や原因関係者への
勧告、あるいは国土交通大臣又は関係行政機関の長へ
意見を述べることなどにより改善を求めることができ
る。
【業務改善アクションプランについて】
平成23年4月、福知山線列車脱線事故調査報告書に
関わる検証メンバーより、10項目からなる「運輸安全
委員会の今後のあり方についての提言」が提出され、
必要な業務の見直しを積極的に進めるために、外部の
有識者を入れて組織と業務の改善を具体化する会合を
設けて、提言その他必要な事項の改革に取り組むべき
であるとされている。
そこで、運輸安全委員会では、外部の有識者の指導
を得て組織と業務の改善に取り組むため、同年7月、
運輸安全委員会業務改善有識者会議を設置し、平成24
年3月、組織のミッション、及びミッションを実現す
るため、4つの行動指針に沿い業務改善アクションプラ
ンを策定した。
【事故防止・啓発ツールについて】
従来の、事故防止・啓発のための情報発信ツールで
あった「運輸安全委員会ニュースレター」においては、
当委員会全体の活動等に関わるトピックスと、事故等
事例の紹介とが併載されており、再発防止・啓発を目
的とするものか、委員会のPR活動を目的とするものな
のか、必ずしも役割が明確になっていなかった。
そこで、統計分析や類似事例を取りまとめた各種ツ
ールや、海外向け情報発信ツールの確保が必要との認
識に立った上で、広く一般に周知すべき当委員会のPR
活動を中心としたツールと、統計・分析及び事故等事
例紹介を内容とし、再発防止・啓発を目的としたツー
ルとに分けることとした。
また、地方事務所においては、管轄区域内における
船舶事故等の防止に資するため、地方版分析集を作成
しているが、周知啓発が必ずしも十分でないことから、
情報発信における内容の充実及びその周知啓発活動を
積極的に行うこととしている。
【運輸安全委員会ダイジェスト】
「運輸安全委員会ダイジェスト」では、従来のニュ
ースレターにおける事例紹介等の形式を維持しつつ、
モードごと、又はモード共通のテーマについて特集し、
紹介すべき事故事例、及び各種統計に基づく分析など
の内容を充実させ、事故の再発防止・啓発に向けた情
報発信ツールとすることを目的として、平成24年4月
より発行を開始した。
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