海洋人間学雑誌 第1巻・第1号
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設立記念大会シンポジウム1「船と安全」
航海訓練所における安全対策
阪根靖彦(独立行政法人 航海訓練所 安全推進室長)
キーワード:海難事故、事故再発防止対策、ISMコード
【はじめに】
航海訓練所は、2004年10月に発生した海王丸海難事故
を契機として「安全推進室」を設置しました。また、2006
年9月、ISMコードに基づく安全管理システム(SMS)の「適
合認定書」及び「船舶安全管理認定書」を任意取得し、毎
年の審査、内部監査等を通じ、練習船隊・陸上組織が一丸
となって船舶の安全運航及び環境保全に努めています。当
所の安全に対する取り組みの主な活動を以下に紹介しま
す。
【海難事故再発防止対策】
事故後、外部の学識経験者等も含めた「海王丸事故原因
究明・再発防止等委員会」を設立して海王丸海難事故を検
証し、以下に示す5つの柱、9つの具体策からなる「事故
再発防止対策」を広く公表しました。
1.不安全行動の防止と安全風土の確立
対策1 安全風土の確立に向けた宣言を行うとともに、
不安全行動を防止するための活動を推進する。
対策2 安全管理システムを一層積極的に運用するため、
「安全推進室」を設置し、安全推進体制を強化する。
2.乗組チームの機能強化
対策3 乗組チームの機能を最大限に発揮させるため、
OJT、BRM、ERM等教育・研修内容の見直しを行う。
対策4 能力や適性の評価を踏まえた人事管理の見直し。
3.陸上からの支援体制の強化
対策5 台風等の接近に際しては、陸上側に台風等対策
支援チームを設置する。
対策6 各地避泊地情報を収集し、情報を共有する。
対策7 船陸間情報通信ネットワークを充実強化する。
4.台風対策指針の速やかな作成
対策8 台風対策の基本的考え方等を盛り込むとともに、
民間船社における台風対策や海難審判庁の台風海難に係
る調査・分析結果をも反映した台風対策指針を速やかに作
成する。
5.緊急事態を想定した演習の充実・強化
対策9 海上保安庁など他機関との連携をも視野に入れ、
様々な緊急事態が国内外を問わず発生することを想定し
た演習を充実・強化する。
【安全管理システムの運用・改善】
安全管理システム認定書の任意取得以来、システムの運
用・改善を重ねてきました。ISMコードの改正にも対応し、
PDCAサイクルを適切に運用しながらシステムの見直し、改
善の努力を続けています。
【安全推進会議】
安全風土醸成に向けた新たな取り組みの一つとして、
2009年3月に「安全推進会議」を立ち上げ、定期的に9
月期と3月期に理事長以下陸上のスタッフと練習船隊の安
全担当者が一堂に会して安全に関する議論を行っていま
す。
【ヒヤリハット報告及びリスクアセスメントの導入】
安全推進会議では、その成果物ともいえる新たな安全へ
の取り組みがいくつか生まれましたが、なかでもヒヤリハ
ット報告の件数増加はめざましいものがあり、総報告件数
が飛躍的に増えました。また、2010年度からISMコードや
STCW条約という船員の教育訓練に不可欠な国際ルールも
リスクアセスメントの導入を推進する改正が実施され、い
ち早く練習船の運航現場にリスクアセスメントを導入す
るため理事長以下幹部・練習船の安全担当者に対しリスク
アセスメント研修を実施する等さまざまな取り組みを行
ってまいりました。
【緊急事態への対応】
当所では「海王丸海難事故の日」の10月20日から1週
間を緊急対応能力強化週間と定め、組織一丸となって集中
的に事故等の再発防止活動を計画実施しています。理事長
の安全宣言及び海王丸海難時の報道記録の放映等による
安全への啓蒙活動を行うほか、船陸連携の緊急対応合同訓
練を、実施しています。
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