海洋人間学雑誌 第1巻・第1号
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設立記念大会シンポジウム2「水辺活動と安全に関する取り組み」
水の事故ゼロ運動の全国展開により水の事故を1 件でも減らす
遠藤卓男(ウォーターセフティー ニッポン)
キーワード:自然体験と水の安全教育の推進
【はじめに】
ウォーターセーフティー ニッポン(WSN・水の事故ゼ
ロ運動推進協議会)は、平成22年3月にブルーシー・アンド・グ
リーンランド財団(B&G 財団)や日本財団はじめ海洋関係7団
体を設立発起人として、行政・団体・企業・マスコミ・ボ
ランティア・個人などが参加する協同組織として設立され
た。
設立趣意は、子どもたちの健全な成長に欠かせない“自
然体験活動”を進めるとともに、事故のリスク・対処法を
教え、“自分の命を自分で守る自助意識”を身に付けさせ
る「水の安全教育」を通じ、水の事故ゼロを目指す「水の
事故ゼロ運動」を国民運動として全国展開する。
【水の事故ゼロ運動の現状】
本運動を推進するため「教育」「体験」「啓発・普及」に
分けて事業実施。特に小学校やB&G地域海洋センター等
の社会体育施設において「水辺の安全教室」等を開催し、
平成 23 年度は全国で体験活動に 79,809 名、啓発活動に
521,983名が参加した。
また、本運動を推進するための賛同団体を「パートナー」、
個人・団体を「サポーター」として登録しているが、本年8月
21日現在、累計で1,173団体、8,900件となっている。
本運動の究極の目標は、“日本の水の事故ゼロ”である
が、当面の目標としては、平成 20 年度の警察庁発表の水
の事故・水死者数を基準にして、平成30年度までに50%
削減(水死者数410人以下)を目指している。しかしなが
ら、事故の半数が集中する夏場の天候次第で大きく水の事
故状況は異なり、WSN設立後の2年間ではほぼ横ばいが
続いている。
また、前記以外に主なものは次のとおり。
●水の安全教育の先進地であるオセアニアの「ウォーター
セーフティー・ニュージーランド」(2009年)と「オース
トラリアン・ウォーターセーフティー協議会」(2012年)
との業務提携を締結。
●津波や集中豪雨などの自然災害に対する安全教育の推
●「オレンジフラッグ」の推進
●「水の事故ゼロ運動」の標語の募集と表彰
●世界標準「水辺の安全標識」の設置推進
【水の事故が減らない要因】
水の事故が減らない要因としては、ルールやマナーを守
らないことや特に幼児については保護者が目を離したす
きに起こるなど、個々の自覚に起因するものも多い。
今年の水の事故も、幼い子供を助けにいった親や兄弟、
あるいは友人が死亡する二重事故や台風等による高波に
さらわれるなど、繰り返し発生している。
【まとめ】
このような事故を繰り返さないためにも、例えば磯場で
の釣りではライフジャケットの着用や子供から目を離さないなど、
基本的な事項を守ることが必要であるとともに、「水の安
全教育」を子供のうちに教えることが重要である。
【今後の課題と展望】
日本は、諸外国と比べて子供の自然体験活動が非常に少
ない。事故を恐れて、四周を海に囲まれ緑と河川に恵まれ
た日本において、その環境を青少年の健全教育に活かさな
いのでは、子供の自然体験活動が益々疎遠になりかねない。
今後、家庭と学校教育の中に「水の安全教育」を取り入
れることにより、幼少期から水の事故に対する対処を学ぶ
機会を取入れられるかが課題であり、学校教育を含めた行
政・団体・企業・マスコミ等の連携が機能することにより、
本運動の拡大と水の事故を1件でも減らすことにつなが
るのではないかと思う次第である。
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