海洋人間学雑誌 第1巻・第1号
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設立記念大会シンポジウム1「船と安全」
船内における安全対策
七呂光雄((一社)全日本船舶職員協会)
キーワード:安全対策、意識革命、安全第一
【はじめに】
「海は広いが、船員の視野は狭い」。商船の方が漁船、
外航の方が内航の事が分からないどころか、同業他社の事
さえ分からないように、そこで働く人の視野は狭い。その
結果、自分の船で行っている安全対策が良いのか悪いのか
さえも分からないまま乗船している。他の船で行っている
安全対策や安全文化について船員に教える必要がある。
【船内安全対策の現状】
毎年9月に船員労働安全衛生月間が実施されるので、こ
れまで東京運輸局を中心に官民一体となって東京地区の
月間活動として毎年10数隻の船を訪船し、直接現場を見
て指導を行ってきた。その結果、ある船では安全対策が行
き届いているのに、別な船では全く行き届いていないのが
一目で分かる事が多々あった。船舶では、ヒューマンエラ
ーに関して教育を受ける機会が少ないようである。旅客船
は、特定の地域に就航し乗組員も近くに住んでいるので講
習を受ける機会があるが、内航船の乗組員は、少人数運航
で停泊中は忙しく、居住地も国内各地のため講習を受ける
機会が少ない。また、文字による資料を配付する事は一件
安全対策を行っているように見えるが、難しいものは見よ
うともせず、安全対策は、会社の為でなく自分の為にある
と言う事を分からす必要がある。
【安全意識が低かった要因】
近年「運輸安全マネジメント」が殆どの船に導入され、
また内航タンカー、フェリーを中心に「任意ISM」の導入
が行われて、「船舶管理」という概念から、会社の陸上部
門が船舶の安全管理に積極的に口を出すようになった。
また国は、船員法及び「船員労働安全衛生規則」で船内
の労働安全を確保するために船員労務官(現実は、運輸安
全マネジメントの導入で海上運送法に基づく業務も行っ
ているので運航労務監理官と呼ばれている)が訪船して監
査を行っているが、どちらかというと書類の内容が法的に
問題ないかに重点が置かれて、船内設備の具体的な指導も
乗船している船員からの真の立場になって行われていな
いといっても過言ではない。これは船員労務官が船乗りで
はなく単にお役所に勤務する公務員という事にもよる。こ
のように陸の立場から会社から、また国からも積極的に安
全対策を指導していく環境が整いつつある。一方、船員は
日々の業務に追われ、「会社や労務官から言われるからす
る」というような、自分が事故をしないようにというよう
な意識を持たないままに「しかたなく」行ってきたかもし
れない。しかし、日本全体の安全に対する意識やレベルが
上がるだけでなく、海難事故もマスコミで報道される等で
船員の意識も段々上がってきた。このように船員の安全意
識が低かった要因は、会社を中心として外部から安全意識
の向上を訴えても、「忙しくて、安全どころではない」と
いうような事が許されて船員も真剣に安全の事を考えな
かったことが大きい。また、「安全文化」というような真
の意味の安全第一が船内に定着しないままに、船内生活が
行われてきた事も要因である。
【今後の課題】
船内の安全対策について陸上側と海上側(船員)の両輪
が一緒に回ろうとしている時代となって来た。もし、船内
で事故があれば被災した本人だけでなく、マスコミに大き
く報道され会社の信用が一瞬に失われ、全従業員が影響を
受ける事になる。「安全対策は、会社の為でなく、人(船
員・従業員)の為にある」という事を各自が認識する「意
識革命」が必要である。安全を築く事は長い時間を要する
が、事故が起きれば一瞬に崩れ去る現実を理解させること
が重要である。「人間は誉められると嬉しい」気持ちを大
事にして、自分の会社・船の良い点・悪い点を把握して良
い事は伸ばし、悪い点は改善して行く事が大事である。
船で事故をすれば、折角楽しみにしている下船して自宅
へ帰る夢がかなわなくなる恐れがある。「安全第一」にし
て船内で勤務しておけば、下船して家族に「ただいま」が
言えるという単純な事実を認識して船内生活をしていた
だきたい。
以上
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