海洋人間学雑誌 第1巻・第1号
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設立記念大会シンポジウム2「水辺活動と安全に関する取り組み」
海に学ぶ体験活動協議会等市民活動における安全への取り組み
海野義明(NPO法人オーシャンファミリー海洋自然体験センター代表理事、NPO法人海に学ぶ体験活
動協議会理事、鹿屋体育大学海洋スポーツセンター客員教授)
キーワード:体験活動、海あそび、環境リスク、海の教育力
【はじめに】
海における体験活動は、海と人のつながりを再生し、
持続可能な社会の構築に資することを目的に行ってい
る。そのためには、できるだけ多くの団体及び個人の連
携が必要であり、2001年より5年間の準備研究期間を
経て、2005年に全国的な中間支援組織としてNPO法人
海に学ぶ体験活動協議会(以下CNAC)が設立された。
体験活動の普及のためには、安全特に溺水という水、海
ならではの事故の回避が不可欠であり、これまで様々な
活動を行ってきた。
【海の体験活動における安全の現状】
近年日本では、高度経済成長および少子化の影響等に
より全国的に自然離れが促進した。特に海に関しては、
1965 年以降各地にあった臨海学校が激減し、かつプー
ルの建設により、海とのかい離が著しくなった。結果、
自然から身を守る術が伝承されず事故が増加し、「海は
危ない」との社会認識に至ることとなった。その後反動
で1990年代に入り自然体験活動が、子どもの生きる力
を養い、環境問題の解決には不可欠の体験であることが
理解され、自然体験を提供する自然学校、良き指導者の
必要性が認識されるようになった。海の分野では、2001
年国土交通省港湾局により海辺の自然学校懇談会が開
会され、その後のCNAC設立の基盤作りがなされた。海
辺の体験活動の普及にはまず、指導者の安全対策能力の
向上と確保が必要と2005年に「自然体験活動指導者の
ための海辺の安全対策マニュアル(案)」HP公開※参照
1を作成し、その後全国で海辺の自然体験活動指導者養
成を行ってきた。
CNAC各会員団体においても、各分野
で安全普及の活動を行っている。例:「カヌースノーケ
リング指導のための安全ガイド」公開HP:参照3.
自然体験活動における安全の最も効果的な対策は、自
らの命は自ら守る「セルフレスキュー」の概念である。
そのため、子どもが、あるいは親子で学べる「海あそび
安全講座小冊子」公開HP※参照2 を2008 年に作成し、
全国で安全教室とそのための指導者養成講座を各地の
市民団体や地域のライフセービングクラブなど連携し
て開催してきた。安全教室の開催で留意しなければなら
ないのは、必ず「海あそび」の活動を合わせ開催するこ
とである。楽しく面白いというあそびの要素が子どもの
体験効果上重要である。本年夏東日本津波被災地の大槌
町と気仙沼伊大島にて、地域の子どもが海に戻るきっか
けづくりと、その際万が一にも事故が起きないよう、子
ども海あそび安全教室を開催した。海辺の地域において
故郷への愛着を持ち、地域社会の担い手として存続する
ためには、地域教育として子ども時の地元の海の体験を
積むことが重要である。今夏、改めてそのことを強く印
象付けられた。
社会全体での安全の創出には多くの主体との連携が
必要であり、同シンポジストの国立青少年教育振興機構
とも自然体験活動推進協議会(以下CONE)を通して連
携し、同じくウォーターセーフティーニッポンもートナ
ーシップを締結し連携している。
以上のような取り組みにより、徐々に良い指導者のも
とでは安全に安心して体験活動ができると社会的な認
識ができつつある。安全に終わりはなく、さらなる実践
と連機が必要と考える。
【おわりに】
個人の身体生命に対する安全は、海での体験活動に不
可欠の要素であるが、現代社会は地球規模でさまざまな
環境リスクに直面している。海は人類共有の財産であり、
国際的な存在である。今ほど海での持続可能社会の形成
に資する人材の必要性が叫ばれているときはない。海に
は多大な教育力がある。シーマンシップの概念を鑑みれ
ばそのことがよく理解できる。
海に学び、海で子どもを育て、海の教育力を生かすこ
とが、全人類的なリスクの解決にリーダーシップを発揮
し、未来を拓く人間形成をしていけるものと確信する。
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