海洋人間学雑誌 第1巻・第1号
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設立記念大会シンポジウム3「漁業と安全」
漁業における労働安全の取り組み
久宗周二(高崎経済大学)
キーワード:海上労働科学、自主改善活動、人間工学
【はじめに】
船員の労働災害発生率は他の産業と比較すると高くな
っている。平成21年度の船員の労働災害発生率を全産業
の平均と比較すると、全船舶の労働災害(4日以上の休業)
の発生率は9.9(千人率)全船舶の労働災害(死亡)の発
生率は0.4である。漁船の労働災害発生率を見ると、労働
災害(休業)の発生率は13.5であり、また全産業2.0の
6.8倍である。漁船の労働災害(死亡または行方不明)の
発生率は0.7であり、全産業の0.1の7倍である
(1)
。漁船
は全船舶の中でも労働災害の発生率が特に高く、船種によ
って労働災害の状況も大きく異なる。平成14年度に発生
した漁船の労働災害では「転倒」、「挟まれ」、「まきこま
れ」が多く見られた。対策を「作業方法改善」、「安全確認
の徹底」などに分析した結果、「切れこすれ」・「まき込ま
れ」・「踏み抜き」では、「設備・作業方法の改善」を行う
よりも、「注意喚起」の割合が高かった。労働災害の主原
因が作業方法・船内設備等にある場合は「安全確認の徹底」、
「注意喚起」を行ったとしても労働災害の発生を継続的に
防ぐことは出来ない。
【海上労働災害防止の流れ】
船員法が適用となる漁船では、海上の労働に関する法律
は明治32年、船員法が制定され船員の保護監督を規定さ
れた。昭和39年に船内作業により危害の防止と船内衛生
の保持を図るための必要な事項を命令で定められた「船員
労働安全衛生規則」が制定され、「船員災害防止などに関
する法律」が昭和42年に施行された。昭和57年8月に一
部改正され「船員災害防止活動の促進に関する法律施行規
則」となり、船舶所有者が船員災害防止活動のために果た
すべき役割が明確となり、船内における快適な作業環境や
居住環境の実現と労働条件の改善に努めることになった。
一方船員は、その責務として船員災害防止に必要な事項を
守るほか、船舶所有者その他の関係者が実施する船員災害
防止に関する措置に協力するよう努めなければならない
ことが定められた。国は船舶所有者が行う船員災害の防止
活動について、財政上の措置、技術上の助言、資料の提供、
その他必要な援助を行うように努めることが規定された。
【現在の取り組み】
国土交通省海事局では、平成21年度に船内労働安全衛
生マネジメントシステムのガイドラインが作成された。船
内での危険要因の特定・評価(リスクアセスメント)、一
安全衛生目標や安全衛生計画の作成・実施、当該計画の実
施状況や効果の確認とさらなる改善措置の実施の導入を
推奨している。その中でWIB(船内向け自主改善活動)を
推奨すべき方法としている。これは、ILOの中小企業自主
改善活動プログラムを船内向けにアレンジしたもので、全
員が自主的に参加、無理せず、低コストで、継続的に改善
にする方法で、実用化のためたに、カーフェリーと貨物船
の他、漁船等で関係機関の協力を得て実証実験を行ってい
る。日本で数が多い小型漁船の安全対策では、ライフジャ
ケットの着用を中心に実施している。水産庁では、平成
20年に「漁業者ライフジャケット着用推進ガイドラン」
を作成、海上保安庁は、「ライフガードレデース」、北海道
漁船海難防止・水難救済センターのオレンジベスト運動な
ど、様々な面から促進を行っている。ライフジャケットの
着用は海中転落時の救命の点では有効であるが、漁業の労
働災害は「転倒」、「挟まれ」などが多く発生しており、そ
れらに対して労働災害の対策が必要である。漁業は魚種、
船の大きさ、地域によって漁法、船の大きさ、作業手順が
異なる。個々の現場に合わせた労働災害防止対策が必要で
ある。対策が多義にわたるために、働いている人たちが、
自分たちの職場に一番いいやり方を提案する等の自主的
な労働災害防止活動の推進が必要である。その手段の一つ
として、活発に活動する団体を表彰するとともに、良い改
善事例や改善手法を、他地区に普及を図るための啓発など
が、対策に有効と考える。
参考文献
(1) 国土交通省:船員労働災害発生状況報告書,2012.4
1...,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18 20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,...51