海洋人間学雑誌 第1巻・第1号
22
Oa05.上肢の挙上・下制による手指尖部加速度脈波に影響
を及ぼす要因の検討
石原里枝子(東京海洋大学)
藤本浩一・佐野裕司(東京海洋大学大学院)
キーワード:加速度脈波、APG index、血管内血液量
【目的】
末梢循環の評価指標の一つとして加速度脈波が挙げら
れる。この加速度脈波は、波船酔いや顔面冷却によって、
手指尖部の波形が高齢者型に変化し、それを指標に算出さ
れ、総合的指数であるAPG indexの低下することが知られ
ている。本研究では、このように加速度脈の変化に影響を
及ぼす要因を明らかにするため、上肢の循環状態を挙上・
下制によって変化させ、手指尖部加速度脈波、手指部血圧、
前腕部局所血液量を計測して検討することを目的とした。
【方法】
被験者は20~23歳の女性6名である。姿勢は仰臥位と
し、上肢を水平位(0°)から、2段階に挙上(30°およ
び60°)させ、つづいて水平位に戻したのち、下制(-30°)
させた。なお上記4姿位は各2分間維持させ、データ収集
はそれぞれ最後の30秒間とした。測定項目は手指尖部加
速度脈波、手指部血圧、前腕部局所血液量および心電図で
ある。また心電図R波と手指尖部加速度脈波a波を用いて
脈波伝播時間を計測し、この時間を血管長で除することに
よって脈波伝播速度を算出した。
【結果と考察】
APG indexおよび脈波伝播速度は、上肢挙上により低下
し、下制により上昇する傾向が認められた。収縮期および
拡張期の血圧は、共に上肢挙上により低下し、下制により
上昇した。前腕部局所血液量は、全被験者が上肢挙上によ
り減少し、下制により増加した。
以上のことから、上肢挙上により指尖部の血管内血液量
が減少すると血管が弛緩し、血圧と脈波伝播速度の低下が
生じると推察され、反対に上肢下制により指尖部の血管内
血液量が増加して血管が怒張すると、血圧と脈波伝播速度
の上昇が生じると推察される。よってAPG indexも、上肢
の挙上・下制による血管内血液量の変化に付随した変化と
考えられる。従って、先行研究で報告されている波船酔い
や顔面冷却による手指尖部の加速度脈波の高齢者型への
波形の変化やAPG indexの低下は、指尖部の血管内血液量
の低下に付随した変化と推察される。
Oa06. エリート息こらえダイバーにおける潜水中の血液
再配分
藤本浩一(日本女子大学、東京海洋大学大学院)
佐野裕司(東京海洋大学大学院)
キーワード:息こらえ潜水、血液再配分
【目的】
本研究は、潜水中のエリート息こらえダイバーにおける、
頭部局所血液量(
head regional blood volume, H-rBV
)と腕
部局所血液量(
armregional blood volume,A-rBV
)の変化様
相を観察することを目的とした。
【方法】
フィンを用いて潜行浮上を行う競技種目(
constant weight,
CWT
)において、世界ランキングトップ
10
に入る男性競
技者
2
名が実験に参加した。潜水中の
H-rBV
A-rBV
変化様相の観察には、防水耐圧加工を施した筋赤外線分光
装置を用い、プローブは前額部(脳前頭葉上)と左前腕部
(長橈側手根伸筋上)に装着した。データは潜水
2
分前〜
-40m
までの
CWT
〜浮上
3
分後にロギングした。
【結果と考察】
参加者1…潜行開始〜
15
秒後にかけて、
A-rBV
に急峻
な減少を認め、潜行終了まで減少状態は定常的に継続した。
一方で
H-rBV
は、ほぼ直線的に増加した。浮上開始直後、
A-rBV
は潜行中に減少したレベルよりもさらに減少し、浮
上中は減少したレベルが定常的に継続した。
H-rBV
は潜行
時の増加様相と変わらず、直線的な増加が観察された。
参加者2…潜行開始〜
8
秒後にかけて
A-rBV
に急峻な減
少が認められ、潜行終了まで、ほぼ定常的な状態が観察さ
れた。
H-rBV
は、潜行開始後に一旦上昇したものの、すぐ
に潜水前のレベルより減少した。しかしながら
A-rBV
定常状態になるのと同期するように増加を始めて潜行前
のレベル以上となり、潜行終了時に増加のピークを認めた。
浮上中、
A-rBV
は潜行中よりもさらに減少し、この状態は
ほぼ浮上終了まで定常的に継続した。一方で
H-rBV
は潜
行中に増加したレベルから減少する様相が観察されたが、
潜水前のレベルより増加した状態は継続された。
【結論】
本実験に参加した
2
名のエリート息こらえダイバーにお
いては、実際の潜水中に
H-rBV
が増加し、
A-rBV
が減少
するという、血液再配分またはブラッドシフトと呼ばれる
反応が明瞭に観察された。
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